再生医療の豆知識

抗がん剤脱毛を再生医療の要:幹細胞の観点から考える

2019年01月01日

現在、右肩上がりで乳がんの患者さんが増えています。乳がんは乳房と髪へのダメージがあまりにも強烈で治療を拒否し、助けられる命も為す術もなく亡くなられる患者さんがおられます。乳房の再生術もカツラも進歩して昔に比べると、随分、精神負担は軽くなったといわれています。

それでも抗がん剤による副作用である激しい脱毛は何とかならないのかと思います。医師は「命は一つしかないけど、髪は何度でも生え変わるから」と抗がん剤治療を勧めます。抜けた髪が生えるまで一年あまりを長いと考えるか短いと考えるか人それぞれです。場合によってはその一年が耐えられないという人もいるでしょう。

現在、日進月歩で医学が進んでいます。抗がん剤による脱毛のメカニズムも幹細胞レベルで解明されようとしています。何れはそれらを元に脱毛を避ける術も開発されることでしょう。現在、わかっている部分をわかりやすく説明いたします。

抗がん剤で抜ける髪は成長期の髪

抗がん剤で抜ける髪は成長期の髪
髪が生え、抜けかわるまでをヘアサイクル(毛周期)といい、一本の髪が生え、抜けるまでの期間は4~6年です。

まず、活発に毛母細胞が分裂して髪が伸びていく成長期、その後、成長が止まる退行期、最後は成長が完全停止して非常に抜けやすい状態の休止期へと移行し、同時に新しい髪が作られる準備が始まっています。
1人の頭に成長期の髪が90%近く、退行期の髪が1%、休止期の髪が強10%、混在しています。ヘアサイクルが正常であれば、常にこの割合を維持しているため、一定量の髪がいつも頭の上に存在しています。

個人差がありますが、抗がん剤が体内に入ると、10日ぐらいで抜け始めます。
髪のほとんどが成長期で退行期や休止期の髪はわずかという配分であるため、成長期の髪が抜ければ、無毛に近い状態になります。

なぜ、抗がん剤は成長期の髪を襲撃し、あっという間にツルツルハゲにしてしまうのでしょうか?
抗がん剤の働きからその理由がわかります。

なぜ、抗がん剤で髪が抜ける?

増殖(分裂)スピードが速いがん細胞を撲滅する薬剤は、増殖の激しい細胞を選んで作用するような成分です。

がん細胞、あるいはがん細胞ではないかの選択ではなく、増殖スピードの加減で選択、襲撃するため、がん細胞でなくても増殖スピードが速い細胞ならどんな細胞でも抗がん剤はぶつかっていきます。
発毛させる毛母細胞の増殖スピードは非常に速く、抗がん剤の餌食となります。
成長期、退行期、休止期というヘアサイクルの中で一番、激しく細胞が増殖する時期は成長期です。
抗がん剤はがん細胞だけでなく、同様に増殖スピードの速い成長期の細胞を襲撃するため、太くて強い成長期の髪が一気に抜けていくことになるわけです。

非常に簡単な説明でしたが、おわかりいただけたでしょうか?

この抗がん剤による脱毛の過程を再生医療の要でもある幹細胞の観点から考えてみたいと思います。

抗がん剤による脱毛を毛包幹細胞の観点から考える

再生医療研究者であり、脱毛症関係の診療ガイドラインの作成者の1人でもある北里大学天羽教授の研究論文の中に抗がん剤がおこす脱毛の過程を毛包幹細胞周辺の動きから明らかにしたという内容の記事があります。

この研究は抗がん剤脱毛の予防や治療を再生医療、薬剤などで治療を可能にする道標となり、患者さんの頭の毛が無くなるという精神的苦痛を和らげるきっかけになるかもしれません。

毛包幹細胞の正確な分布と働きが解明される

毛包幹細胞の正確な分布と働きが解明される
頭皮よりも下部には発毛、または発毛を維持するための細胞がたくさん、存在しています。その中にバルジ領域という部位があり、毛包幹細胞という発毛に重要な細胞が存在しています。
バルジ領域が発見された頃はそこに毛包幹細胞が存在していることはわかっていても、分布状況や発毛のための血管新生がどのようにコントロールされるかなどはまだよくわかっていませんでした。
天羽教授らが幹細胞のマーカーとして知られているネスチンというタンパク質(Ⅳ型中間径フィラメント)を用いて実験、研究したところ、毛包幹細胞の存在する正確なエリア、毛包幹細胞による血管新生の強力な制御コントロールの作用機序が解明されました。

では、発毛のために働いている毛包幹細胞に抗がん剤を触れさせる(投与)と毛包幹細胞はどのように動くのでしょうか?
ここに抗がん剤治療をされている患者さんの心を痛める脱毛をおこす原因が存在しているはずです。

抗がん剤投与で毛包幹細胞はどうなる?

抗がん剤と一口にいっても種類が多く、作用機序も異なってきます。
抗がん剤の一つに乳がん治療でもよく用いられる塩酸ドキソルビジン(商品名:アドリアシン)があります。
副作用としてよく知られているのが激しい脱毛で、成長期の髪を襲撃します。
近年、塩酸ドキソルビジンによる脱毛過程が徐々に明らかにされてきました。
毛包幹細胞は増殖しながら、正常に発毛、育毛するために重要な脂腺細胞に変わっていく(分化)能力をもっていますが、塩酸ドキソルビジンは毛包幹細胞から脂腺細胞への分化を抑制します。
通常であれば、成長期を経た髪は退行期に向かいますが、塩酸ドキソルビジン投与で向かうことなく、毛包細胞が壊死。そのため、成長期の髪のまま抜けてしまいます。
その上に、成長期の細胞分裂(増殖)に必要な血管増殖も抑えられて栄養補給ができず、激しい脱毛がおきることが明らかになりました。

その他、シクロホスファミド(商品名:エンドキサン)。これも乳がんの抗がん剤としておなじみですが、成長期脱毛過程、原因もわかりつつあります。

抗がん剤脱毛と再生医療

抗がん剤脱毛と再生医療
抗がん剤による脱毛は可逆的なので抜けても抗がん剤治療が終って一年もすれば、生え揃うというのが一般的で、自然治癒が可能な脱毛症です。

しかし、抗がん剤で脱毛した患者さん全てに髪が回復してくるとは限らないようです。
埼玉医大の矢形教授らが行なった抗がん剤による脱毛後の回復率アンケート調査によると、数年経っても以前のような髪に戻らない、別のアンケート調査では高齢ほど、カツラからの離脱が難しいといった調査結果がでています。
前述しましたように抗がん剤による脱毛は毛包幹細胞レベルでのこと。
これらの解決も再生医療の出番だと考えるのが妥当でしょう。

まとめ

いかがでしたが?
聞きなれない言葉もチラホラあったかもしれませんが、それを読み飛ばしても何となく御理解いただけたのではと思います。

抗がん剤による脱毛と言えば、乳がんが有名ですが、乳がんだけではありません。また、以前のように髪が回復しない人もいるわけです。
こんなとき医学がよくわからなくても、もしかしたら再生医療が有効ではと考えますよね。

再生医療はこれからの医療です。
抗がん剤の脱毛メカニズムが解明されることによって、脱毛治療の研究開発も並行して進みます。
必ずや、脱毛がイヤで治療できる範囲を狭くすることがないような時代がやってくることでしょう。


^