再生医療の豆知識

再生医療の倫理的問題について

2019年01月28日

ひと昔前には、臓器移植にともなう法律の制定にともなって、各界の専門家が議論を重ねたことは、記憶にある人も多いのではないでしょうか。新しい治療法が確立されるときに、注目されるのが提供される医療に倫理的問題がないかどうかです。この記事では、再生医療にまつわる倫理上の問題点について紹介します。

臓器移植でも倫理的問題が焦点

臓器移植でも倫理的問題が焦点
今からおよそ20年前の1997年、脳死患者さんから取り出した臓器を移植できる臓器移植法が制定されました。脳死とは、脳の機能が停止している状態であり、なんらかの医療の介入があれば、脈や呼吸がみられる状態です。臓器移植法の制定に関して論点となったのが、「脳死を人の死とするかどうか」でした。
現在、臓器移植法は改定を経て、本人の意思にかかわらず遺族が望めば、臓器の移植が行えるとしています。しかしながら、法律の改定法後、臓器移植の件数は増加傾向にあるものの、まだまだ一般的な治療といえる状況ではありません。臓器移植は、脳死後に臓器を提供するため、一人ひとりの死生観が大きく影響していることが考えられます。このように、新しい治療法を確立するには、単に医療技術的な問題だけでなく、倫理的な問題がないかなどの問題も検証する必要があります。再生医療の倫理的問題点についても、いくつかみていきましょう。

ES細胞で問われた倫理的問題点

再生医療でよくでてくるワードのひとつにES細胞があります。一般に体の細胞は特定の細胞に分化するという特徴があります。一方、ES細胞は、さまざまな細胞に分化できる能力を持ち、なおかつ無限に増殖できるという特徴があります。再生医療を躍進させるものと期待されたES細胞ですが、実用化するには倫理的問題点が懸念されていました。これは、ES細胞は、受精卵を壊すことによって作られるものだからです。ES細胞は、人間などの受精卵の一部を取り出し、培養することで作られます。ここで言う、受精卵の一部を取り出すというのは、受精卵を壊すことを意味します。
ES細胞の研究では、不妊治療で行われる体外受精で、母体に戻されなかった分の受精卵(医学的には余剰胚といいます)。しかしながら、余剰胚も母体に移植すれば、妊娠の可能性はあります。そのため、欧米では再生医療においてES細胞を使うことは、宗教界を中心に強い反対が起こっていました。実際に、アメリカでは大統領により、ES細胞に関する法令が不成立になったり、各地でも反対の運動が起きていることで知られています。
一方、日本はどうかというと、受精卵への介入について、それほど大きな反発はなかったものの、ES細胞の取り扱いは海外と同等の水準となっています。たとえば、日本ではES細胞の研究は国内のわずかな機関のみで行えるものであり、使用できる受精卵の日数についても決まりがあります。

iPS細胞の登場で、再生医療の倫理的問題が解決?

iPS細胞の登場で、再生医療の倫理的問題が解決?
再生医療にかかわる倫理的問題の解決の糸口になるとして、注目されているのがiPS細胞です。iPS細胞について、インターネットなどの医療ニュースでも、時々取り上げられるので、ES細胞と同様に名前を聞いたことのある人もいるでしょう。
iPS細胞も、さまざまな細胞に分化でき、人工的に作られます。具体的な方法としては、人間の皮膚の脂肪などから取り出した細胞に、特定の遺伝子を組み込むことで作ります。iPS細胞の作成は自分の細胞を使うことができます。ES細胞で用いられる受精卵のように、少なくとも生命の始まりとなる細胞を犠牲にする必要はありません。このように、iPS細胞の登場は、ES細胞で課題となっていた倫理的問題を解決したといえるでしょう。

再生医療の倫理的問題は解決済みなのか?

iPS細胞の登場で、再生医療の倫理的問題が解決したのはほんの一部です。近年では、iPS細胞を使って、複数の動物をかけ合わせた新種の動物が作り出されています(医学的にキメラといいます)。また、臓器移植における慢性的なドナー不足から、再生医療を用いて臓器を大量に作れるという可能性もゼロではありません。
日本では臓器移植法の成立時に、さまざまな審議が行われていました。まさに今に再び、再生医療を通して、医療の持つ倫理的問題に突き当たっているといえるでしょう。

まとめ

再生医療の治療法のなかには、臓器移植のときに問われたような「神の領域」と呼ばれる部分の検証を必要とするものがあります。再生医療の治療法のなかには研究段階のものが多く、今後さらに検証を重ねていく必要があるものです。再生医療をはじめとする医療技術は、日進月歩で発達していますが、倫理的問題を疎かにするべきではありません。特に、再生医療の倫理的問題の検証については、科学者によって行われるのではなく、さまざまな分野の専門家や私たち一人ひとりの意見が大切となります。今回を機に、再生医療の恩恵を期待するとともに、倫理的な観点から自分なりの意見を考えてみるのもよいですね。


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