自閉症スペクトラム障害(ASD)について

2020年1月25日

監修:長岡 美妃先生

現代医療に携わりながら病の根本原因、医療本来の在り方、さらに真の社会の在り方、女性の生き方を追求している医師。 東京女子医大消化器外科センターにて癌の外科治療に従事。
その後、福岡の秋本病院にて緩和ケアセンター長として多数の方の精神的苦痛を和らげてきた経験をもつ。 内視鏡の技術にも定評がある上、コミュニケーション能力が非常に高く、患者様からの信頼がとても厚い。 著書:『「真の」医療者をめざして』 他

大きく3つに分類される発達障害の一つである自閉症スペクトラム障害(ASD)。

かつて「自閉症」「広汎性発達障害」などの名称が用いられてきましたが、近年はこれらをひとつのスペクトラム(連続性)と捉えるようになり、自閉症スペクトラム障害、自閉スペクトラム症と呼ばれるようになりました。

自閉症スペクトラム障害(ASD)は子供が発達していく過程において何らかの問題により、認知の障害が生じていると考えられています。幼児期、特に4歳になっても自立心が育っていないことが一つの診断基準となります。

早期発見のための自閉症スペクトラムに特化したスクリーニングとしてはM-CHATという乳幼児期自閉症チェックリスト修正版が有用です。

自閉症スペクトラム障害(ASD)とは

  • 1. 他者との関わり、コミュニケーションを取るのが苦手で、他者への関心も薄い
  • 2. 行動にこだわりがあり、関心や動作のパターンが限定的
  • 3. 想像力に乏しく、言われたことを表面的に受け取りやすい傾向がある

という大きく分けて3つの特性(「三つ組みの特性」)があり、感覚のアンバランスさが指摘されます。

友達づきあいが苦手であったり、名前を呼ばれても反応しない、相手の微妙な表情の変化などが読み取れない、毎日のように同じ行動を取るため、急に予定が変わると対応できないといった特徴が見られます。

また人に対しての関心が薄く、一人で放っておかれても寂しがることがありません。人との関わりに興味がないためコミュニケーションを取ることへの欲求も低く、言葉の発達が遅れるケースが目立ちます。

同じ動作をいつまでも繰り返したり、特定のことに執着したり、何かを集中的に収集したりといった「常同行動」を取る子供も多く見受けられます。

さらに、自閉症スペクトラム(ASD)の特性を持ちながらも、知的な遅れがなく対人関係もさほど問題ない「アスペルガー症候群」という分類もあります。

アスペルガー症候群の特徴

  • マイペース…人見知りはあまりせず、マイペースな言動でよく喋ります。しかし他のことに興味が移った瞬間、その場から立ち去ってしまうようなことも。急に思いつきで話すことも多いため、自分勝手という印象を周囲に与えることになりやすいです。
  • 言語能力はむしろ発達している…あえて難しい表現をしたり、英語での表現を好んだりします。冗談は理解できるけれど、言葉を表面的に受け取りやすい傾向が。
  • パターン化…融通が聞かず、行動や言動をパターン化しやすいです。自分で納得し決めたルールを他者にも要求するところが見られます。
  • 多動・注意力散漫…多動や注意力に欠ける人も多いです。

発達障害その他のグループ

発達障害は大きく3つのグループに分類されます。その一つが「自閉症スペクトラム(ASD)」で、他に「注意欠陥・多動症(ADHD)」「学習障害(LD)」があります。近年は有名人が自らの発達障害をオープンにするなど、発達障害への理解も少しずつ深まってきました。

注意欠陥・多動性障害(ADHD)

落ち着きがなく、不注意、衝動的な行動という3つの特性があります。約5%の子供がADHDと考えられており、男児は女児に比べ3倍以上多いという統計があります。

知能発達に大きな遅れはないものの、多動、衝動性があるため、授業中やテストの最中に教室を出て行ったり、他の子供に話しかけ続けたりといった行動を取る子供もいます。

一つのことへの集中力が乏しく、ものをよく忘れたりなくしたりします。じっとしていられず、常に手や足を動かしたり、授業中でも物音を立てたり、周りの迷惑を考えない行動をとりがちです。

順番が待てない、思いつきで行動するといった特性もあります。しかしそのような行動は一方で、鋭い集中力を発揮した後の代償的行為として起こっている場合が多々認められます。

一般的に4歳から7歳頃にははっきりADHDとわかる行動をとり始めます。

学習障害(LD)

知的発達や聴覚、視覚は正常であるにも関わらず「読む」「聞く」「書く」「話す」「計算する」「推論する」の6つのうち一つ以上の習得が極度に難しい状態です。

教科書を読むのがたどたどしい、同じ行を何度も読む、文章の聞き取りができない、長い話には集中できない、誤った発音をする、文字が書けない、暗算ができない、因果関係の理解ができないなどそのあらわれ方も一人一人異なります。他の発達障害と併存しているケースもあります。

大人の発達障害

子供のときには発達障害があることに気づかれず、そのまま成長し、大人になって発達障害とわかるケースも少なくありません。成長するにつれ症状は改善していくものの約1/3の人は生活に支障をきたす特性を残したままです。

就職後何度言われても仕事が覚えられない、単純なミスが多い、片付けができず忘れ物や失くし物が多いなど一見不注意を思われることも多いため、人間関係にも問題を生じやすくなります。

女性よりも男性の方が発達障害を抱える成人がうつを発症しやすい傾向もあるため、周囲の理解が不可欠と言えます。

発達障害に見られる認知機能障害の原因

発達障害は軽度の知的障害と理解されてしまうことがありますが、決してそういう単純なものではありません。変異遺伝子による多数の表現過多の総称であり、これまでに約遺伝子が特定され、これらの複合的な突然変異によって発現することから、種別は無限にあると言えます。

遺伝子変異により脳内の特定な神経の未発達が生じると、それに平衡をとる働きが他の部位の驚くべき発達をもたらすことがあります。しかし環境によるストレスによって、認知機能障害と画一的に言われてしまうことが多々みられます。

発達障害の薬物治療法

自閉症スペクトラム症(ASD)

幼児期に判明した場合、個別や少人数でコミュニケーションの発達を促す療育など集団生活を可能にするサポートが有効とされています。中学生になり、思春期を迎えたときにうつ症状などがあらわれた場合は、病院など医療機関で抗うつ剤などによる薬物療法が選ばれることもあります。

注意欠陥・多動症(ADHD)

薬物療法としては脳を刺激し、ノルアドレナリンやドーパミンの分泌を改善するアトモキセチン、塩酸メチルフェニデートなどの治療薬が用いられることがあります。

学習障害(LD)

教育的支援が中心となります。周囲の理解と協力が不可欠です。

発達障害の「腸脳相関」における見識

腸と脳は「腸脳相関」と言われるほど密接な関わりがあり、自律神経によって5本のルートで繋がっています。

  • 1.視床下部脳下垂体副腎皮質の繋がり⇒ステロイドの分泌、ステロイド分泌が腸内フローラに影響を与えます。また腸内フローラのバランスがステロイドの分泌に影響を与えます。腸内フローラのバランスがとれるとストレス耐性が高まります。
  • 2.腸内フローラのバランスがよいと短鎖脂肪酸がバランスよく分泌されます。短鎖脂肪酸は腸漏れ症候群(リーキーガット)を改善させるため、精神状態に安定感がもたらされます。腸内フローラのバランスが取れるとコミュニケーション力がアップし、引きこもりの精神が社交的に変化します。
  • 3.腸内フローラのバランスがよいと腸漏れ症候群(リーキーガット)が改善されます。腸漏れ症候群は精神疾患や発達障害、自閉スペクトラム症の症状を増悪させる原因となります。腸漏れを改善することは自閉症スペクトラム(ASD)にとって重要な位置を占めます。
  • 4.腸管周辺にはおびただしい数の迷走神経(自律神経の一つ)が張り巡らされています。迷走神経のバランスが崩れると精神的にも身体的にも過敏になりますが、腸内フローラが整うことで病的な過敏状態が改善されます。
  • 5.腸内フローラから脳内神経伝達物質が生成されます。ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、GABAなど人の感情を大きく動かす物質が腸内フローラから形成されるのです。したがって腸内フローラのバランスがとれていると精神的にも安定し、過ごし安さに繋がります。

自閉症スペクトラム症における社会的な生き辛さの改善には、腸内フローラと口腔内フローラのバランスを整え、とくに腸内フローラに関しては乳酸菌の枯渇を補う必要があることが分かってきています。

腸内フローラ治療による自閉スペクトラム症(ASD)最新の治療法

当院では腸内フローラ研究の第一人者である陰山康成医師が、これまでにたくさんの自閉症スペクトラム(ADS)を抱えるお子さんや成人を腸内フローラ治療によって生き辛さの改善へと導いてきました。

腸内フローラ治療とは腸内フローラの細菌種をくまなく調べ菌体のバランスをとる治療法です。腸内フローラ検査によってどのような腸内細菌叢、すなわちどんな菌がどのようなバランスで生息しているかを検査し、内服あるいは移植によって腸内環境の改善を図ります。

当院では血液と菌体をあらかじめ相性のよい菌体をラボで調べ、そのマッチングにより適合した清潔な菌体を内服していただく方法を採用しております。この治療により自閉症スペクトラム(ASD)による生き辛さを誘発する症状が改善していくお子さんがたくさんいらっしゃいます。